ホーム / CCBTの活動 / 【TMPR通信】TMPRメンター・宇川直宏による「動点観測所」講評
レポートアーティスト・フェロー活動レポート

今回のTMPRによる「動点観測」は、採択段階では「散歩」と語られてきた。ただしタイトルはその段階から「AIが見てきた風景を辿る 人工知能紀行」とあったので、プロジェクト単位で大きな改訂があったわけではない。当初、自分が懸念していたのは「散歩」という行為の奥深さである。トイプードルと生活している身、犬との散歩は自分にとって既に日常であるからだ。散歩は”歩く”ことでストリートを五感全てから吸収し、脳機能を活性化させ、生活のリズムを整える。喩えて言えば「食事」という行為と大変共通項が多いと常々感じていたからだ。故に「何処で誰とどんなコースで行うのか?」セット(精神状態)とセッティング(社会環境)が大変重要な要素となる。そのようにかなりパーソナルな行為ゆえ、果たして現行の生成AIとどのような「散歩」という生活体験(生存活動体験)をコラボレートできるのか?老婆心ながら大変気になっていた。しかしTMPRは最終的に「散歩」を「観測」と読み替えることによりその懸念を払拭し、”生活体験”ではなく、参加者に与えられた”任務”としてこのプロジェクトを昇華させ得た。デザインされた観測所や、ユニフォームや、スマートフォンによるナビゲーションシステムなどの演出により、散歩者ではなく観測者として我々を街へと放流させた。実際参加してみて感じたことは、観測者としての自覚を持つことにより、よりストリートを俯瞰視できる観測眼を持つことができたことだ。アルゴリズムによる無作為なルート選定によって、日常から逸脱した動点観測がそこには実現していた。しかし、ひとつ教訓を得たのはやはり「観測」もセットとセッティングが重要だということである。例えAIに提案された不合理なルートであったとしても「誰とどんなことを語りながら体験を共有できるのか?」そのことが最も大切な要素であると「観測」することができた。そう、今回偶然集合した我々のグループはメンバーが最高だった。良くも悪くもこのことが観測体験の質を大きく左右するプロジェクトであったと思う。なぜなら、任務自体が演出なので、任務の内容が明確ではなかった為だ。また、TMPRの面々が言うように、透明の犬(AI)との「散歩」はまだまだパートナーレヴェルには到達してはいなかったが、透明の犬はいくらでも学んでくれる。そう「動点観測」の犬神は、ディープラーニングによって幾らでも覚醒するのである!!!!! なので現在の「人工知能紀行」は悟りに至るまでの透明のハプニングを愛でながら楽しんだもの勝ちなのではないか?このプロジェクトを体験してそのような充実した学びがあった!!!!!!!!

宇川 直宏(うかわ・なおひろ)

”現在”美術家/DOMMUNE主宰

映像作家、グラフィックデザイナー、VJ、文筆家、キュレーター、大学教授、そして”現在美術家”など極めて多岐にわたる活動を展開するアーティスト。ライブストリーミング・チャンネル「DOMMUNE」を開局し、毎夜、オルタナティヴ・プログラムを世界に配信。令和2年度(第71回)芸術選奨文部科学大臣賞受賞(2021年)。

TMPR(岩沢兄弟+堀川淳一郎+美山有+中田一会)Tokyo Moving Point Researchers (Iwasawa Bros. + Horikawa Junichiro + Miyama Yu + Nakata Kazue)

Tokyo Motion Point Researchers

デジタルとフィジカル、ハイテクと手作業、モノの視点とヒトの視点を行き来しながら、まちと遊ぶリサーチユニット。立体デザイナー、立体プログラマー、平面デザイナー、対物プランナー、対人プランナーが協働中。2023年結成。読み方は「てんぷら」。

https://www.instagram.com/tokyo_tmpr/